誰かのために人は笑う。

JRA 2011年宝塚記念 新聞広告

誰かのために人は笑う。(PDF)

あてもなく会社をやめた僕だったが、
それでも彼女は、いつものように笑っていた。
だから、かえって不安になってしまった。
仕事も確実な未来も手放したというのに、
僕は彼女を失っていない。
それがどこか反則みたいに思えたのだ。


彼女の休暇を待って、僕たちは車で旅に出た。
九八年の夏。目的地はなかった。「駆け落ちみたい」彼女が笑う。
何かが終わる旅になりそうな予感がした。


南へ向かう途中で、阪神競馬場に寄った。
宝塚記念の日だ。誰もが、サイレンススズカに注目していた。
「馬というより風に近い」言ったら彼女に笑われた。


サイレンススズカが、あの「大逃げ」をはじめたのは、
向こう正面に入ったときだった。もはや競走ですらない。
八馬身、九馬身。差はどんどんひらいていく。
ゴールの瞬間よりも、この疾走をずっとみていたい。
だけど後半、後続との差が一気に縮まってきた。
ああ、つかまってしまう。横をみた。
彼女は、でも笑っている。
はっとした。僕は何に怯えていたのか。
僕にはいつも、こんな笑顔がついていたのだ。


抜かれなかった。サイレンススズカは逃げ切った。


そう、大逃げだ。
いろんな諦めや退屈や、反則のペナルティや、
よくわからぬ不安や、よくある別れが、
群れになって僕らを追いかけてきても。
そいつらにつかまるその日まで、逃げつづければいい。
「大丈夫かもしれない」つぶやいたら、
本当にそう思えた。根拠はないが、必要もない。
ひとまず彼女の笑顔を真似してみた。


それからふたり、車へ向かって走る。
「駆け落ちみたいだね」今度は僕が言いながら、
目的地はここだったのだと思った。

稀代の逃げ馬、サイレンススズカ。でもそれがマイペースだった。


久々にサイレンススズカの競馬が観たくなった、あとでDVD観てみよう。

JRA 2011年宝塚記念 CM


WIN5

  1. 12,16
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  5. 3,4